日本における洋上風力発電は、再生可能エネルギーの主力電源化に向けて期待が高まる中、その導入を加速するための制度整備が重要なカギを握っています。特に、2018年に施行された「再エネ海域利用法(海洋再生可能エネルギー発電設備の整備に係る海域の利用の促進に関する法律)」は、洋上風力の導入にとって制度的な基盤を築く重要な法律です。
本記事では、この法律の目的や仕組み、現状と今後の展望について解説します。
制定の背景 – 海域利用の不透明さを解消
洋上風力発電の導入にあたっては、陸上とは異なり「海域」という公共財を長期にわたって利用する必要があります。しかし従来、日本には発電を目的とした海域利用に関する統一的なルールが存在していませんでした。各港湾管理者や漁業関係者、海運業者などとの個別調整が求められ、プロジェクトの不透明性やリスクの高さが参入障壁となっていたのです。
こうした課題を受けて、国として明確なルールを策定する必要が生じ、2018年に「再エネ海域利用法」が制定されました。
法律の概要 – 「促進区域」と公募制度
再エネ海域利用法では、政府が洋上風力発電の導入に適した海域を「促進区域」として指定できる仕組みを導入しました。促進区域に指定されるには、以下の要件が検討されます:
- 風況・海象条件が良好であること
- 漁業・航路など先行利用との両立が可能であること
- 系統接続の可能性が見込めること
- 地元自治体や関係者との調整が進んでいること
この区域内で事業を行うには、政府が実施する公募に参加し、最も優れた提案を行った事業者が選定されます。選ばれた事業者は、最長30年間の海域占用許可を受けることができ、長期的かつ安定的な事業運営が可能になります。
区域指定・事業者公募の流れ

公募の評価ポイントと透明性
公募では、単に価格競争にとどまらず、以下のような観点から総合的な評価が行われます
- 地域貢献・雇用創出の計画
- 技術的な実現性と安全性
- 発電コストと経済性
- 環境への配慮と調和
- 継続的な操業・保守体制の確保
また、公募結果や評価基準は原則として公開され、透明性と公正性が担保される仕組みとなっています。
現在の指定状況と今後の見通し
2025年1月時点で、政府は全国で10件の促進区域を正式に指定し、さらに複数の「有望区域」「準備区域」についても調査・調整を進めています。対象海域には、秋田県、長崎県、千葉県などが含まれており、地域ごとに特性を活かしたプロジェクトが期待されています。
今後も再エネ海域利用法の枠組みを通じて、制度の予見可能性を高めつつ、地域との合意形成を丁寧に進めながら、洋上風力の導入が加速される見通しです。促進区域に指定された10案件の情報はこちらから

再エネ海域利用法の意義と課題
この法律の最大の意義は、従来の不透明な海域利用から脱却し、民間事業者が長期的な視点で投資判断を下せる環境を整備した点にあります。また、地域や関係業界との合意形成を制度に組み込むことで、社会的な受容性を高めたことも評価されています。
一方で、促進区域の指定や公募プロセスには一定の時間を要するため、手続きの効率化や地域調整のさらなる高度化も今後の課題です。また、浮体式などの新技術への対応や、送電インフラとの連携強化も重要な論点となっています。
まとめ
再エネ海域利用法は、日本における洋上風力発電の普及を制度面から支える中核的な法律です。透明性の高い海域利用、公平な公募制度、長期的な事業安定性の確保を実現するこの仕組みは、国内外の投資家にとっても信頼性のある制度設計と言えるでしょう。制度のさらなる運用改善を通じて、日本がアジアの洋上風力市場をリードする存在となることが期待されます。
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