日本における洋上風力発電は、再生可能エネルギーの主力電源化に向けて期待が高まる中、その導入を加速するための制度整備が重要なカギを握っています。特に、2018年に施行された「再エネ海域利用法(海洋再生可能エネルギー発電設備の整備に係る海域の利用の促進に関する法律)」は、洋上風力の導入にとって制度的な基盤を築く重要な法律です。
再エネ海域利用法について知りたい方はこちらから
本記事では2025年1月時点で再エネ海域利用法における「有望区域」に指定されている9区域について、下記4項目について推定し、投資採算性の観点から各区域の競争力を評価していきます。次回の公募となるラウンド4に選ばれるのはどの区域になるでしょうか?
- CAPEX(資本費)・OPEX(運用費)
- AEP(年間発電量)
- IRR(内部収益率)
- LCOE(均等化発電コスト)
有望区域と発電容量

2025年1月時点でMETIより公表されている、再エネ海域利用法における「有望区域」に指定されている全9区域と想定される発電容量は下表のとおりです。
有望区域 | 発電容量(MW) |
---|---|
北海道石狩市沖 | 910~1140 |
北海道岩宇・南後志地区沖 | 560~705 |
北海道島牧沖 | 440~555 |
北海道檜山沖 | 910~1140 |
北海道松前沖 | 250~315 |
青森県沖日本海(北側) | 300 |
山形県酒田市沖 | 500 |
千葉県いすみ市沖 | 400 |
千葉県九十九里沖 | 410 |
北海道地域の発電容量の下限値および上限値は、風車機種の発電容量(10MW or 15MW)による違いとみられます。

CAPEX・OPEX推定
再エネ海域利用法における「有望区域」に指定されている9区域について、資本支出(CAPEX)と運用支出(OPEX)を、2024年10月のNEDO洋上風力発電コストモデルを参照に算出しました。北海道地域は15MW機の採用を前提(発電容量は上限値)とし、その他の地域は10MW機を採用前提としました。
有望区域 | 発電容量(MW) | 風車基数 | CAPEX(億円) | OPEX(億円) |
---|---|---|---|---|
北海道石狩市沖 | 1140 | 15MW x 76基 | 4697 | 81 |
北海道岩宇・南後志地区沖 | 705 | 15MW x 47基 | 2905 | 50 |
北海道島牧沖 | 555 | 15MW x 37基 | 2287 | 39 |
北海道檜山沖 | 1140 | 15MW x 76基 | 4697 | 81 |
北海道松前沖 | 315 | 15MW x 21基 | 1298 | 22 |
青森県沖日本海(北側) | 300 | 10MW x 30基 | 1236 | 21 |
山形県酒田市沖 | 500 | 10MW x 50基 | 2060 | 35 |
千葉県いすみ市沖 | 400 | 10MW x 40基 | 1648 | 28 |
千葉県九十九里沖 | 410 | 10MW x 41基 | 1689 | 29 |
年間発電量(AEP)推定
再エネ海域利用法における「有望区域」に指定されている9区域について、定格出力より推定したパワーカーブ(15MW、10MW)とNEDOのNeoWinsの風況データを用いて年間発電量(AEP)を算定しました。
有望区域 | パワーカーブ定格出力 | 設備利用率(%) (損失非考慮) | 設備利用率(%) (損失考慮) | 年間発電量(kWh) |
---|---|---|---|---|
北海道石狩市沖 | 15MW | 39.64 | 31.71 | 3166887168 |
北海道岩宇・南後志地区沖 | 15MW | 34.73 | 27.78 | 1715884272 |
北海道島牧沖 | 15MW | 40.24 | 32.19 | 1565110656 |
北海道檜山沖 | 15MW | 41.52 | 33.22 | 3317082624 |
北海道松前沖 | 15MW | 44.00 | 35.20 | 971308800 |
青森県沖日本海(北側) | 10MW | 42.72 | 34.18 | 898145280 |
山形県酒田市沖 | 10MW | 37.88 | 30.30 | 1327315200 |
千葉県いすみ市沖 | 10MW | 38.39 | 30.71 | 1076148480 |
千葉県九十九里沖 | 10MW | 33.69 | 26.95 | 968008032 |
IRR(内部収益率)とLCOE(均等化発電コスト)
再エネ海域利用法における「有望区域」に指定されている9区域について、一般的な投資判断の指標とされるIRR(内部収益率)とLCOE(均等化発電コスト)を算定しました。なお、下記条件を仮定しています。
- 風力発電の運転期間=25年間
- 供給価格=18円/kWh
- WACC=6.5%
有望区域 | IRR (%) 内部収益率 | LCOE(円/kWh) 均等化発電コスト |
---|---|---|
北海道石狩市沖 | 9.29 | 14.70 |
北海道岩宇・南後志地区沖 | 7.43 | 16.78 |
北海道島牧沖 | 9.51 | 14.48 |
北海道檜山沖 | 9.98 | 14.04 |
北海道松前沖 | 10.87 | 13.24 |
青森県沖日本海(北側) | 10.41 | 13.64 |
山形県酒田市沖 | 8.64 | 15.38 |
千葉県いすみ市沖 | 8.83 | 15.18 |
千葉県九十九里沖 | 7.03 | 17.30 |
有望区域の競争力評価
再エネ海域利用法における「有望区域」に指定されている9区域の競争力について、投資採算性という観点で5段階評価しました。
評価基準
評価 | IRR(目安) | LCOE(目安) | 意味合い |
---|---|---|---|
★★★★★ 非常に有望 | ≧ 9.5% | ≦ 15 円/kWh | 投資採算性も発電効率も極めて良好。優先的に注目すべき区域 |
☆☆☆☆ 有望 | 8〜9.5% | 15〜17 円/kWh | 投資価値は高く、他要因(港湾・送電)次第で採算十分可能 |
☆☆☆ 普通 | 6.5〜8% | 17〜19 円/kWh | 条件次第で可能性あり。コスト削減や支援策が鍵 |
☆☆ 厳しい | 5〜6.5% | 19〜22 円/kWh | 採算性がやや低く、技術的・制度的支援が前提 |
☆ 不採算 | < 5% | > 22 円/kWh | 現状では難しい。抜本的な制度支援か技術革新が必要 |
評価結果
有望区域 | IRR (%) | LCOE(円/kWh) | 評価 |
---|---|---|---|
北海道石狩市沖 | 9.29 | 14.70 | ☆☆☆☆ |
北海道岩宇・南後志地区沖 | 7.43 | 16.78 | ☆☆☆ |
北海道島牧沖 | 9.51 | 14.48 | ★★★★★ |
北海道檜山沖 | 9.98 | 14.04 | ★★★★★ |
北海道松前沖 | 10.87 | 13.24 | ★★★★★ |
青森県沖日本海(北側) | 10.41 | 13.64 | ★★★★★ |
山形県酒田市沖 | 8.64 | 15.38 | ☆☆☆☆ |
千葉県いすみ市沖 | 8.83 | 15.18 | ☆☆☆☆ |
千葉県九十九里沖 | 7.03 | 17.30 | ☆☆☆ |
まとめ
2025年1月時点で「再エネ海域利用法」に基づき有望な区域として指定された9区域について、IRR(内部収益率)とLCOE(均等化発電原価)の観点から、投資採算性を評価しました。
その結果、以下の4区域が特に優れた投資採算性を示し、競争力の高い区域と位置づけられました:
- 北海道島牧沖
- 北海道檜山沖
- 北海道松前沖
- 青森県沖日本海(北側)
残る5区域についても、いずれも一定の採算性が確認されており、今後の制度設計やコスト削減の進展次第では、事業化に十分な可能性があると評価されます。本分析が今後の促進区域選定やラウンド4の公募において、民間事業者・投資家にとっての判断材料となることを願います。
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