日本は、洋上風力発電の導入を加速させており、その象徴的なプロジェクトの一つが千葉県銚子沖洋上風力発電プロジェクトです。本事業は、日本政府が進める第1回洋上風力発電入札（通称：ラウンド１）の一環として実施され、2030年までに10GW、2040年までに30～45GWの洋上風力発電容量を確保するという国家目標達成に向けた重要なステップとなります。

本プロジェクトの総発電容量は403MWに達し、着床式洋上風力発電として日本の電源構成の脱炭素化に大きく貢献するとともに、地域産業の発展や経済活性化を促進することが期待されています。この記事では、プロジェクトの詳細、スケジュール、推定されるCAPEX&OPEXについて詳しく解説します。

プロジェクト概要

プロジェクト名	千葉銚子オフショアウィンドファーム
開発事業者	千葉銚子オフショアウィンド合同会社
コンソーシアム	三菱商事洋上⾵⼒株式会社、株式会社シーテック、三菱商事株式会社
設置場所	千葉県銚子市沖
発電方式	着床式洋上風力発電
風車機種	GE
供給価格	16.49円/kWh
発電容量	403MW（13MW×31基）
建設開始	2025年1月（陸上）、2027年2月（洋上）
運転期間	2028年9月～2052年1月

設置場所

Chiba Choshi Offshore Wind location — 出典：千葉銚子オフショアウィンドファーム

発電設備概要

Chiba Choshi Offshore Wind turbine overview — 出典：METI公開資料（千葉県銚子市沖公募占用計画の概要）

プロジェクトスケジュール

プロジェクトのタイムラインとフェーズ

開発・設計フェーズ（2021年～2025年）
- 2021年12月：公共入札の受注
- 環境影響評価、風況、波浪、海底地質調査
- FIT 申請および許可
- 地元関係者説明・同意
- ウィンドファーム認証、工事計画届
建設フェーズ（2025～2028年）
- 2025年1月：陸上変電所と送電インフラの建設
- 2027年2月：洋上基礎とケーブルの設置
- 2027年：風力タービンの組立と設置
運用・保守フェーズ（2028年～2052年）
- 風車の維持管理：GE
- 操業・保守（洋上）：北拓
- 操業・保守（船舶保有・管理）：日本郵船
- 操業・保守（陸上系統）：シーテック
撤去・再発電フェーズ（2052年以降）
- 風力発電設備の寿命終了時の計画
- 将来のエネルギー政策に基づく再稼働の可能性

Chiba Choshi Offshore Wind schedule — 出典：METI公開資料（千葉県銚子市沖公募占用計画の概要）

CAPEX & OPEX 推定 (NEDOモデルに基づく)

資本支出（CAPEX）と運用支出（OPEX）を、最新のNEDO洋上風力発電コストモデルに従い推定しました。

千葉県銚子沖洋上風力発電プロジェクトの資本支出（CAPEX）の推定は約1660億円で、運用コスト（OPEX）は年間約30億円と推定されます。

📌 CAPEX 内訳 (403MW)

資本費の構成	推定費用 (億円)
風車	913
基礎＆施工	631
変電所＆系統接続等	116
合計	1660

経済的および環境的影響

地域経済の成長

銚子洋上風力発電プロジェクトは、地域の雇用創出とサプライチェーンの強化を目的としています。主な取り組みは以下の通りです：

サプライチェーンの発展：日本の製造業者やサービスプロバイダーとの提携を促進
雇用創出および労働力育成：地域の教育機関と連携し、研修プログラムを提供
地域企業の支援：インフラ開発を通じて経済活動を活性化

環境への配慮

本プロジェクトでは、環境影響評価（EIA）を厳格に実施し、環境負荷を最小限に抑えるための戦略を採用しています：

海底の保護：高度なモノパイル基礎技術を活用し、海洋環境への影響を軽減
漁業との共存：地域の漁業関係者と協力し、持続可能な共生を実現
野生生物の監視：鳥類や海洋生物の生態系を保護するためのモニタリングプログラムを導入

技術革新

銚子プロジェクトは、世界的な洋上風力発電の専門知識を活かし、以下の革新的な技術を統合しています：

次世代タービン：高効率のGE製「Haliade-X」タービンを採用
スマートグリッド統合：東京電力と連携し、送電効率を最適化
AIによる監視：デジタルツイン技術を活用し、予測保守やリアルタイムの性能最適化を実施

地域社会との連携と持続可能な開発

銚子プロジェクトでは、地域社会との統合を重視し、以下の取り組みを進めています：

市民の意識向上：ワークショップや説明会の開催による地域住民への情報提供

地元漁業の支援：水産養殖研究や持続可能な漁業手法への投資

教育プログラムの充実：大学と連携し、洋上風力に関する研究・教育を推進

事業計画をゼロベースで見直し？

三菱商事は、国内3カ所の洋上風力発電プロジェクトの見直しに伴い、2024年4〜12月期に522億円の減損損失を計上したと発表しました。中西勝也社長は記者会見で「減損は重く受け止めている」とし、今後の事業方針をゼロベースで検討する意向を示しました。

減損の原因と今後の方針

三菱商事は2021年の入札で3案件を受注し、約3年間開発を進めてきたものの、世界的なインフレ、円安、金利上昇などの影響でコストが想定を大きく上回りました。そのため、採算性を再評価しており、最終的な事業継続の判断は今後決定するとしています。

また、計上した資産のほぼ全額を損失処理しており、今後追加の減損が発生する可能性はあるものの、影響は限定的と説明しました。

減損損失の内訳

調査・設計・許認可取得の費用を資産として計上していたが、今回すべて損失処理。
既に支払った費用に加え、今後発生予定のコストも含めた総額が522億円。

入札時の価格設定について

2021年の入札では、三菱商事は競合他社を大幅に下回る低価格で落札しましたが、同社は「エネコの知見を活用し、リスク分析を行った上での判断だった」と説明。結果として、想定以上のインフレやコスト上昇が事業の採算性に大きく影響したとしています。

洋上風力事業の今後

三菱商事は、洋上風力が脱炭素社会の重要な電源であることを認識しており、今後の事業方針については、インフレや金利、為替動向などを踏まえて慎重に判断する方針です。

まとめ：日本の洋上風力発電の展望

千葉県銚子沖洋上風力発電プロジェクトは、日本の再生可能エネルギー拡大を象徴する重要な取り組みですが、コスト上昇、送電網の制約、地元漁業との調整、規制手続きの遅れなど、克服すべき課題も多く残されています。

一方で、政府の支援強化や技術革新、産業基盤の整備が進めば、これらの課題を乗り越え、日本の洋上風力市場はさらなる成長を遂げる可能性があります。今後は、投資家や関連企業にとっても、政策動向や市場環境を注視しながら、戦略的な対応が求められるでしょう。